徒然なるままに読み耽りたり

活字狂いの主と友人二人の読書録風レビューサイト

雪車町地蔵さん作 Rust ~錆び逝く物語~

 

 このサイト初のレビュー作品は、雪車町地蔵さんのRust ~錆び逝く物語~となりました。

 

 この作品との出会いについてなのですが、こちらは作者さんの方から読んでもらえないかと言われて読み始めた作品になります。しかし、読み進めるにつれ僕は一つの思いを抱き始めました。どうして僕はこれを自分で見つけることができなかったのか。こんな素晴らしいのに埋もれている作品を見つけることこそが、自分の存在意義ではないのか、と。本当に悔しかったです。

 

 さて、そんな僕の後悔は横に置いておくとして、こちらの作品についてのレビューになります。

 

 まずこの作品なのですが、SF的な文明が進みすぎたがゆえに滅んでしまったあとの世界を舞台としています。ジャンルもSFですしね。ですが、むしろ話の筋としてはファンタジーを意識しており、タグにもあるとおり王道ファンタジーと言ったほうがわかりやすい内容に仕上がっています。

 

 ついこの間、縁あってSFの世界観でファンタジーをやる作品を読んだばかりだったので、ピンときました。SFとファンタジーという区別は、そこに理屈を求めるかしか違いがないと思っている僕からすると、紹介しやすい分類としての意味しかないのですが。

 

 この作品、そのファンタジー要素を支えているのが『錆』と『浄歌士』です。世界を覆い尽くさんとする『錆』と、それを祓うのを生業とする『浄歌士』。この二柱を軸にして話は進んでいきます。その成り立ちには確かにSF的な根拠が用意されており、納得のいくものとなっているのですが、テイストが完全にファンタジーのそれであり、ラストシーンに至っては完全に王道ファンタジーの最終回となっています。

 

 そう、この作品のラストシーン。これがまたすごいのです。7章からの怒涛の展開は、まさに最終楽章にふさわしく、15万文字の作品でよくぞここまでこのシーンを際立たせることができたな、と仰天するしかありません。作者さんがご自分で仰ってるようにスロースタートな物語なのですが、だからこそこの迫力は生まれたのでしょう。

 

 この作品、始まり方は正直重たいです。読者の中には1章を読みきるのもつらい方もいるかもしれません。重たいだけではなく、作者さん独自の書き方が少々人を選ぶものだからです。しかし、先に述べたとおりこれに慣れてしまえば、この作品はとても素晴らしいものに変化します。繊細で緻密な心理描写、あたかも今目の前にあるかのように描き出す情景描写。そして、世界観設定の精緻さにも驚愕を禁じえません。いつからか、あなたもこの作品の虜になっていることでしょう。

 

 実は僕は最近とみに泣けないのです。感動するほどの作品を見たときだけ涙を流すことができます。最近で涙を流した作品と言えば、『ワンピース』ですとか、『ノーゲーム・ノーライフ』、『アイドルマスターシンデレラガールズ』あたりですね。どれも映像作品ばかりです。なのですが、この作品。僕を泣かせてきました。文章作品を読んでいて涙を浮かべたのは本当に久方ぶりで、前回は『勇者イサギの魔王譚』の完結の時だったと記憶しています。

 それだけこの作品のラストシーンは感動します。ぜひ最後まで読まれることを推奨いたします。

 

 長々としたレビューになってしまいましたが結論から言えば、なぜこの作品がこんな低評価なんだおかしいじゃないか! という僕の憤りから生まれたレビューです。最後まで読んだとしても絶対に時間の無駄にはなりませんから、ここはひとつ騙されたと思って読みに行ってみてはいかがですか?